2008.06.28(Sat)
海辺の街に住んでいる。カモメはもう見飽きた船で5分程度の距離にある離島にはすでに人の影はなく、中学生の時分にはよく、度胸試しと騒いで泳いでわたったものだ
不思議と死人は出なかったが、今でもよく覚えている。あそこにはアンダーテイカーなる者が住んでいるという噂
渡りの薬売りに聞いた話だ。そのとき私の両親は出払っていて、間抜けにも私は彼を家に入れてしまったのだ。
薬売りは私に怪談を話して時間を潰し、両親が帰ってくるのを待つ算段なのだった
大きな薬箱を置くと早速彼は話し始めた
「あすこには森があるだろう」
「はぁ」
棒アイスを舐めながら私は話半分に聞いていた。舗装されていない道には陽炎が立ち上り。どこか遠くでセミも鳴いていたと思う
「その森を抜けるとな。トンネルがあってな、なんでもあの島じゃあ。なんていったかなぁ。石が出るのよ」
彼は鉄鉱石を知らなかった。もちろん私も
「そのトンネルにはなアンダーテイカーっつう化け物が住んでいるって、流れの芸人がいっとったわ」
「アンダーテイカー?」
「そうよ。なんでも一度会えば次の瞬間には地獄だそうだ」
季節が一巡りする間に2度。流れの芸者がやってくる。彼らは他所で聞き知った知識を私たち田舎者に教えてくれる情報の源のような存在だった
「横文字の化け物がいるものか」
私は歯と手でアイスの棒をパキンと折ると、庭先へ飛び出し。海へ向かった
浜辺へ行くと馴染みの顔がそろって水浴びをしていた
空が広く、ときたま涼風も吹いていた。カモメどもが舞っているあたりにはきっと魚の群れがいるのだろう
その日は珍しく釣り人もいなくて私はすぐに彼らを見つけた。
「おーい」
「やぁ、翔ちゃんじゃないか。」
健一が顔を上げて手を振った。不釣合いに大きい水中眼鏡をつけている。
私の目と鼻の先に座っていた雪ちゃんが私に初めて気づいたようで体半分振り返り、桜のような笑顔を向けた
「顔色が悪いね」
「雪ちゃんには劣るよ」
彼女は病弱で、いつも薬の匂いをまとっている。家で養生すればいいものを皆と遊びたいからと真っ白い肌をお日様の元へさらす。
彼女は白く小さな顔に似合わぬ麦藁帽子をかぶっていた
「翔ちゃん風邪かい?珍しいね。雪が降るんじゃないか?」
健一を先頭に残りの二人も浜へ上がってきた
「雪ちゃんは降らないけどね」
皮肉屋の一。乾物屋の息子。彼の象徴とも言える右腕の大きな火傷跡は小さなころ熱湯に腕を突っ込んで出来たらしい
「あんちゃんは一言多いってば」
最年少の小春ちゃんは一の妹で。小学4年。一と健一が私と同じ6年。意外なのが雪ちゃんで中学3年だった
雪ちゃんが遠方から療養のためにこちらに引っ越し、知り合ってから半年後私たちは初めてそのことを知ったのだ
彼女はしばらく笑い続けていた。年上と知るや否や男三人が急にしおらしくなったのがおかしかったのだ。
雪ちゃんは気づいていないようだったが私たちがしおらしくなったのは雪ちゃんが急に大人びて見えてしまったからだ。雪ちゃんのせいで、私たちは色気づいたのである
村の者も皆そのことを知らなかった。雪ちゃんは童顔で背も低かったから。
「へぇ、面白い話を聞いてきたんだね」
麦藁帽のせいで顔半分に影が差している雪ちゃんはニコニコとうれしそうに笑っている
「行ってみよう!アンダーテイカーとやらをとっ捕まえよう!」
一番乗り気なのが健一。両腕を天に突き上げかなり楽しげだ
「捕まえたら一躍時の人だ!」
次いで乗り気なのは顔一杯含み笑顔の一。
そして心配そうに目を泳がせている小春ちゃん。
私はというと周りの空気に飲まれて先ほどまでとは打って変わってすっかり意気揚々としていた
麦藁帽のせいか、夏の火照りのせいか。雪ちゃんの目が一瞬悲しそうにきらめいたのをこのときの私は、なぜか気づけなかった。
『あとがき』
時代は不明。場所も不明。何もかもが不明です。それぞれの苗字も不明 (笑
もしかしたら日本じゃないかもしれませんね (ぇ
とにかく書かないと!と思って書き始めました。あまり長くはならないはずです
多分3幕くらいで終わるんじゃないかな?5かな?
参考にしたのは伊豆の踊り子。温泉宿。どちらも名作。川端康成さんの小説なんですが
実は雪ちゃんは温泉宿のお雪から取っています。
健一、翔ちゃんは適当に。一は新撰組の斉藤一から。小春は、文章中に「桜のような笑顔」とありますが最初そこには「小春のような笑顔」だったんです。そこを桜に代えて小春を名前として使いました
ちなみに翔ちゃんはちゃんとした名前決まってません。主人公なのになんて扱い!
これから舞台は本島から離島に移ります。舞台が離島というのも実は伏線です
さて、ここまで読んでくれて本島にありがとうございます。皆さんの暇つぶしになれれば幸いです


